浅倉大介が試奏!Hardware Programmer for MONTAGE M PG-ANX/PG-FMX
2025年5月、ドイツ・ベルリンで開催された電子楽器の展示会“Superbooth25”にて、ヤマハがMONTAGE M用のハードウェア・プログラマー、PG-ANXとPG-FMXを発表。ヤマハ・シンセサイザー50周年を記念した企画の一環として製作された、モジュラー・シンセを思わせる外観の試作機は大きな注目を浴びた。ここでは、MONTAGE M を縦横無尽に使いこなす浅倉大介が本機を試奏。その特徴や魅力について、MONTAGE Mの開発者であり、PG-ANX/PG-FMXのプロデューサーでもある大田慎一氏と語り合ってもらった。(『FILTER Volume.09』より転載)

物理的な制約を取っ払い、MONTAGE Mの持っているサウンド・ポテンシャルを
すべて発揮できるモンスターみたいなコントローラーを作ろうという発想でした ────大田慎一
MONTAGE M用のハードウェア・プログラマー、PG-ANX、PG-FMXを製作することになった経緯を教えてください。
大田 今年はヤマハ・シンセサイザー50周年ということもあり、5月にベルリンで行われたSuperbooth25で何か派手な試作品を発表したいという話が社内で盛り上がっていたんです。それとは別に、以前からMONTAGE M のような大型シンセサイザーのパラメーターを操作できるアナログ・シンセライクなインターフェースのコントローラーを作りたいという話があって、50周年というタイミングも合わさり、やってみようということになりました。こういったインターフェースを作る場合、通常はパラメーターを厳選して、必要に応じてマクロ的に1つのノブで複数パラメーターが気持ち良く動くように設計をしていくんですけれど、今回は試作品ということで製品化を意識しないで作りました。物理的な制約を取っ払い、MONTAGE Mの持っているサウンド・ポテンシャルをすべて発揮できるモンスターみたいなコントローラーを作ろうという発想が、このPG-ANX、PG-FMX につながっています。
PG-ANX、PG-FMXでは具体的にどういったことができるのか説明してもらえますか?
大田 MONTAGE MのAN-X 音源、FM-X 音源を構成する中心的なパラメーターがすべてパネルに出ていて、MONTAGE MとUSBでつなぐことによって MONTAGE Mのサウンドをコントロールできるようになっています。また、常に双方向通信ではありませんが、ハードウェア・プログラマーのリフレクト・ボタンを押すことで、楽器本体のパラメーターをプログラマーのパネル表示に反映させることもできます。ノブやボタンがいっぱい付いていて筐体も大きく迫力がありますが、これはMONTAGE Mで言うと1パート分なんです。AN-X、FM-Xとも、1〜8までの各パートをコントローラーから指定でき、またすべてのパラメーターが出ているので、音源を俯瞰しての音作りがしやすいと思います。特にFM-Xの方は、1から8のオペレーターすべてがパネル上にパラで立ち上がっています。皆さんご存知のとおり、FM音源はキャリア、オペレーターの設定で性格がガラっと変わります。キャリアとモジュレーターを同時に、例えばエンベロープを同じ設定にしたいといった状況はよく起こりますが、PG-FMXのようにパラで立ち上がっていることで、非常に効率良くアプローチできるという特徴も持っています。ただ実際には、MONTAGE Mは16パートあり、音源系のパラメーター以外にもエフェクトやモーション・シーケンスをはじめ、さまざまなパラメーターを搭載しています。MONTAGE Mでは、PG-ANX、PG-FMXで操作できるこの多くのパラメーターや、それ以外の細かいパラメーターも含めて微調整しながらサウンド・コンテンツが作られているということを体感していただけると嬉しいなという思いもありました。
FMシンセの開発時に使われたGS1のプログラマーを想起させるルックスですが、それは意識しましたか?
大田 ヤマハシンセ50周年ということで、あの頃の雰囲気を今のMONTAGE Mに重ねることで、当時の技術やそれにかかわった開発者の方々への敬意を込めつつ、今後の我々のヤマハ・シンセサイザーを進化、発展させていくシンボル、誓いのシンボルのようになるといいなという意味をこめています。
浅倉さんは、今日初めてPG-ANX、PG-FMXを見てどういう印象を持ちましたか?
浅倉 今、AIでいろいろできるようになっていますが、もしかしてプレス・リリースの映像もAIで作られたものなのかな?と思ってたんです。でも、今日スタジオに来たら実物があって、本当に作っちゃったんだ!ってびっくりしました(笑)。物理的に制限されずに、必要なものを全部外に出したらこんな大きさになって。とにかく触って何かをしてみたいっていう気持ちになりましたね。

プログラマーを操作していたら、実験的な音が次々と出てきて、
音を作れば作るほどどんどん時代が遡っていくんです……古さと新しさの共存、みたいな ────浅倉大介
実際に試奏しての感想は?
浅倉 僕のヤマハ・シンセとのお付き合いは、40年前ぐらいに出たDX7から始まっているんですけど、デジタル化されたことでキャリアとモジュレーターの周波数を1つのツマミでコントロールする方向になったんですよね。要するに一度に1つのパラメーターしか動かせなかったんです。それがPG-FMXとして、こうやってリアルに8オペレーターそれぞれのコントローラーが表に出てきたので、今までにやってみたことがなかった、FM の絶妙な周波数のぶつかり合いの調整ができるようになっています。すごく時間がかかっていた作業がもっと気軽にできる、トライ&エラーがたくさんできるなって思いました。これをステージに置いて操作してたらかっこいいですね。MONTAGEシリーズになってシンセサイザーのパラメーターが膨大になりましたよね?それをツマミにしたら、壁一面が埋まっちゃうから、1つのツマミでコントロールできるようにしましょうということで、画期的なスーパーノブというものが生まれました。その何年後かに、スーパーノブの裏返しのような、正反対のコンセプトのハードウェアが今できていることに1番びっくりしましたね。ヤマハってそういうこともできちゃうんだ!って。
PG-ANXの方はどうでしたか?
浅倉 AN-X音源はバーチャル・アナログなので、もちろんアナログ・シンセのパラメーターはあるんですけど、MONTAGE Mならではのパラメーターというのがすごくたくさんあって。オシレーター・ミキサーからWAVE FOLDER、TEXTURE というモディファイするパラメーターを通ってフィルターに行くという、新しい音作りのシステムですが、その流れが今までのシンセのようにわかりやすくなっています。あと、いわゆるタンスのような昔のシンセは経年劣化しているわけですよね。だから電源を入れても安定しないんですが、AN-X音源は本当に正確に動くので、あえてVOLTAGE DRIFTとAGINGというパラメーターを持っていて、ちょっと古いサウンドにすることができる。PG-ANX音源では、そのツマミが表に出ているのもユニークだと思いましたね。古さと新しさの共存、みたいな……。試奏していた時に、実験的な音が次々と出てきて、音を作れば作るほどどんどん時代が遡っていくんですよね。MONTAGE Mと言えば、豊かなシンセ・パッドが鳴ったり、最新のグランドピアノがサンプリングされているという最先端のシンセなのに、この物理コントローラーで触っていたら、80年代、70年代、下手すると60年代のシンセサイザーの音が鳴ってるんじゃないか、みたいな感覚があったんです。それもきっとこのコントローラーの答えの1つなんですよね。
大田 そうかもしれないです。
浅倉 シンセサイザーは“ 音を合成するもの” っていう原点に戻って、それを体感できました。
大田 パラメーターを単純にトライ&エラーで触っていくと、ジャジャ馬みたいに暴れ出すんですけど、そこにいろいろなセンスや知識が入ると、あっという間に音楽に使える素晴らしさが出てくるっていうのを、浅倉さんの試奏している姿を見て感じました。
浅倉 僕も本当に楽しかったです。あと、PG-ANX、PGFMXを同時に触ったんですが、複数のパートに渡って同時に操作するって、現代のシンセにおいてはなかなかできないことですよね。例えばAN-Xでベースの音を調整して音が丸くなったら、別パートのFM-Xの音色を派手にしていったりっていう、マシンライブのようなこともできちゃうのも楽しかったです。僕にひと晩貸してもらえれば、めちゃくちゃカッコいいマシンライブをできるようになりますよ(笑)。
プログラマーを製作するにあたって、工夫した点はありましたか?
大田 MONTAGE MのAN-X、FM-Xの音源系のパラメーターを全部出すという方針は固まっていたので、あとはそれをどう見せると説明なしに音源の仕組みが俯瞰できるのかっていうところ、レイアウトに力を入れました。アナログ・シンセは、音や情報の流れをラインで示して見せることをあまり多用しないと思うんですけれど、そこは説明なしで理解を進められるようにあえて積極的に表現しています。例えば、PG-ANXのオシレーター・ブロックでは、エンベロープはEG DEPTH につながっていて、それがSYNC PITCH、PULSE WIDTH、WAVE SHAPER にかかるっていうのが、パネル上のラインの印刷を見るだけでわかるようになっています。また、直接シグナルがつながっているものと、関連するものというのに意味合いを分けてグラフィックで表現しています。あと工夫した点として、DX 系のFM にはないんですけれど、FM-X音源では、“SPECTRUM” という機能でセレクトしたタイプによって、オペレーターの波形をパラメトリックに縦横無尽に変えられるんですね。PG-FMXでは、タイプ別にどのパラメーターが使えるかが、LEDディスプレイでわかるようになっています。それ以外でも、例えば、フィルター・タイプによってレゾナンスが効いたり効かなかったりというのもひと目でわかるよう
になっているんです。
浅倉 物理コントローラーなのにディスプレイを持っていて、そこにアルゴリズムも表示されて、そのアルゴリズムを変えるための専用ツマミが1個付いている……なんということでしょう!(笑) ある程度FMの音作りをしていると、逆に怖くてあまりアルゴリズムは切り替えられないですけど、あえてこういうふうに見えるならやってみようかなと思いますよね。(次ページへ続く)

