ルックスもサウンドも魅力の現行シンセサイザー ~ Expressive E Osmose

『FILTER Volume.08』掲載特集“シンセサイザーのデザイン”では、魅力的なルックスを持ち個性的なサウンドが出せるシンセサイザーをピックアップ。それぞれの機種の特徴に着目しレビューした記事をWebでも公開！

外観的な美しさと機能美を併せ持ち
縦横無尽なパフォーマンスを可能にする1台

電子楽器のデザインとは、外観的な美しさ。つまり、デザインの基本である引き算と整然性という考え方の“美”。そして一方では、操作性、機能性を極端に重視したユーザー・インターフェース主軸から生まれた“機能美”。しかしながらこの2つを両立することはとても難しい。誕生して半世紀以上経った今、歴代のシンセサイザー・デザインを見返してみればわかるだろう。そしてどちらにしろ、デザインの良いシンセサイザーは音の期待を裏切らないことは多くのユーザーが経験済みだろう。結論から言おう。このExpressiveE （エクスプレッシブ・イー）Osmoseは、その双方の対極的なデザイン傾向を踏襲した素晴らしいシンセサイザーだということを。

Osmoseを一見した時、アープ2600の鍵盤部分を彷彿とさせた。台座から浮き出したような鍵盤、必要最小限なミニマル・デザイン。アープはOdyssey（Rev.3）でも本体からはみ出した鍵盤デザインを採用していた。この部分だけでも未来的で斬新なイメージである。マッドブラックの筐体は、木鍵なのかプラスチックなのか見ただけではわからないほどの重厚感を醸し出している。早速鍵盤にタッチしたところ、驚いたことに鍵盤上部に並んだ蛇腹の突起物はただのデザイン的な装飾ではなく、鍵盤の延長上であることが分かった（飲み物など置かないように注意しよう）。

そして鍵盤のタッチはかなり深く、さまざまなアフター・コントロールが可能で、さらにはこの鍵盤は左右に揺さぶることでピッチなどをベンダーを使わずに操作できるのだ。テキストを読むだけでは“色物”的な誤解を受けるかもしれないが、Osmoseの鍵盤は過去のあらゆるアフタータッチ・キーボードとは比べものにならないほどのコントロール性能と耐久性を持ち、鍵盤のみで表現できるリアルタイムな音色変化を縦横無尽に行うことができる完成度を誇っている（斜めに配置されたピッチベンドとMODレバーもニヤリとさせられる）。

Osmoseは基本的には500パッチを持つプリセット・シンセサイザーということになるが、音源方式“EaganMatrix”のFM、バーチャル・アナログ、フィジカル・モデリングとそれらを大胆に、また微細にエディット・コントロールすることで得られるサウンドは実質無限大と言える。深い階層を辿ることは演奏者にとってストレスでしかない。しかしOsmoseでは、簡略化されたブラウズ・インターフェースで必要なサウンドに瞬時に辿り着ける。

そして特筆すべきは、サウンド・エディットにおいての視覚的アイディアだ。いくつか例に挙げるとするならば、サウンド・エディット時のディスプレイの表示がとてもユニークであり、なおかつとてもわかりやすいアイコンで表示されている。モジュレーションのrateはウサギが走っていたり、ミキサー部分には台所で使うホイッパーが現れたりする。カットオフにはハサミの絵が施され、サウンドの暗さ調整には月のマークがあてがわれ、何を触ればどう動くかがイメージで瞬時に把握できる。そして鍵盤の感度曲線も微細にエディットできるので、クラシカルでリアルなピアノ・サウンドからエキゾチックなシタールのようなサウンド、パーカッシブなサウンドまで自由に生み出すことができるほか、当然のように、野太いビンテージ・アナログやFMサウンドも縦横無尽に演奏することが可能だ。

また、Osmoseには基本的なアルペジエーターだけではなく、ジェスチャー・トリガーによる変化を瞬時に付けられるので、即興的な変化を自由に付けることができる。さらにはノート間のグライド（ポルタメント）タイムを“プレス・グライド”によりダイナミックにコントロール可能なので、使えば使い込むほどに途轍もないサウンド効果を発揮することができるスーパー・シンセサイザーである。Osmoseの登場で、やはりデザイン良きシンセサイザーは音が良いということが再び証明された。　

文：齋藤久師