【製品レビュー】UDO Audio DMNO

独創的なフィルター設計とバイノーラル・シンセシスで
立体的な音響空間を生み出す新発想シンセ

一見した瞬間、多くのシンセサイザー・ファンは思わず目を奪われるだろう。ユーディーオー・オーディオのDMNOは、ホワイトを基調としたパネル・デザインやツマミの配置は、往年の名機オーバーハイム2Voiceを強く連想させる。その佇まいはビンテージ・シンセ愛好家にとって抗いがたい魅力を放っている。しかしDMNOを単なるレトロなオマージュ機と考えるのは大きな誤解だ。この楽器の本質は過去へのノスタルジーではなく、むしろ未来志向の設計思想にある。クラシックな外観とは裏腹に、従来のアナログ・ポリフォニック・シンセとは異なる、新しい発想による音作りができるのだ。ユーディーオー・オーディオは、これまでSuper 6 やSuper Geminiで“バイノーラル・シンセシス”という独自のコンセプトを提唱してきた。DMNOはその思想をさらに発展させたモデルと言えるだろう。

さて、音作りの中核となるのはFPGAベースのデジタル・オシレーターである。近年のデジタル・シンセは高精度でクリーンなサウンドを追求する傾向があるが、DMNOは少し異なる方向を目指している。オシレーターには意図的に揺らぎや不完全さが盛り込まれ、アナログ機のような生命感と有機的な質感を備えているのだ。アナログ・フィルターの滑らかな質感と、デジタルならではの柔軟な表現力は見事に融合している。ノブを少し動かすだけで荒々しいリードから繊細なパッドまで自在に変化し、その変化も極めて音楽的だ。単なるアナログ・モデリングとは異なる独自のキャラクターを持っている。

本機の個性を決定付けているのが、独創的なフィルター設計だ。中でも注目したいのが、Δ-CUTOFF(デルタ・カットオフ)というパラメーターである。DMNOには1ボイスあたり2つのフィルター・コアが搭載されており、このノブによって両者のカットオフ周波数を逆方向へずらすことができる。一般的なシンセサイザーでは、フィルターは1つのカットオフ周波数を開閉するだけだ。しかしDMNOでは、2つのフィルターの位置関係そのものをコントロールできる。Δ-CUTOFFを上げると片方は高域へ、もう片方は低域へ移動する。その結果、非常に立体的なステレオ感やフェイザーのような複雑なうねり、さらにはフォルマント的な響きが生まれる。従来のシンセサイザーが“ フィルターを開閉して音色を変える”とすれば、DMNOは“フィルターの関係性を変化させて空間を作る”と言っても良いだろう。この発想は実にユニークだ。実際に操作していると、音色を変えているというより、音の存在する空間そのものを変形させているような感覚を覚える。他のシンセサイザーではなかなか味わえない体験である。

アナログ・フィルターの滑らかな質感と、デジタル・オシレーターならではの柔軟な表現力が融合。
ノブを少し動かすだけで荒々しいリードから繊細なパッドまで自在に変化させることができる。

DMNO最大の魅力であるバイノーラル・シンセシスについても掘り下げてみよう。一般的なシンセサイザーのステレオ表現は、モノラル音源にコーラスやパンニングを加えて左右へ広げるものがほとんどである。しかしDMNOでは、音源そのものが左右独立して生成されるため、驚くほど立体的な音場が作られる。ヘッドホンで演奏すると、その違いはすぐに理解できる。音が単に左右へ広がるのではなく、前後や奥行きまでも感じられるのだ。内部では独立した2つのシンセ・チャンネルが左耳用と右耳用として機能し、オシレーター、フィルター、エンベロープに至るまで二重化されている。それぞれに微妙なデチューンやフェイズのズレを与えることで、従来のシンセシスでは得られない不思議な立体感を実現している。

また、本機ならではの特徴として、PLAY MODEも見逃せない。パネル上のドミノ牌を思わせるユニークなグラフィックは単なるデザインではなく、2つのシンセ・エンジンの関係性を直感的に示すためのものだ。モードによって音の振る舞いは大きく変化し、同じパッチであってもまったく異なる表情を見せる。特にランダム、カオス・モードは印象的だった。予測不能な変化が次々と発生し、これまで聴いたことのない立体的なサウンドが生まれる。そこへアルペジエーターやリバーブ、ディレイを組み合わせると、DMNOならではの幻想的な音響空間が広がる。ユーディーオー・オーディオが掲げるバイノーラル・シンセシスの思想を最も強く体感できる機能の1つだ。

インターフェースも非常によく考えられている。近年のシンセサイザーは、機能の増加に伴い階層構造になったメニュー構造や複雑な操作が要求されるが、DMNOはワンノブ/ワンファンクション設計を徹底している。主要パラメーターの多くへ直接アクセスできるため、思いついたアイディアをすぐ音に反映できる。この即応性は、ライブ・パフォーマンスだけでなく制作現場でも大きな武器となるはずだ。

DMNOが最も得意とするのは、やはりバイノーラル効果を活かしたアンビエントやパッド・サウンドだろう。音が空間に溶け込み、時には耳の後ろから回り込んでくるような錯覚さえ覚える。その豊かな音響表現は、現代のエレクトロニック・ミュージックにおいて強力な個性となる。一方で、ベースやシーケンスを演奏しても存在感は抜群で、決して空間表現だけの楽器ではない。音の芯がしっかりしており、ミックスの中でも埋もれにくい。

これまでにない空間表現や現代的な存在感を持つハイブリッド・サウンドを求めるなら、DMNOはその期待に十分応えてくれる。ビンテージの魂を宿しながら、未来のコンセプトで鳴らす。DMNOは、シンセサイザーの新しい可能性を示す極めて刺激的な1台である。

文:江夏正晃(marimoRECORDS/FILTER KYODAI)

製品情報

UDO Audio DMNO

価格●オープン・プライス(市場予想価格:557,810円前後/税込)

Specifications

●ボイス:8(バイノーラル・モード時4)●鍵盤:44鍵(FATAR製、アフタータッチ対応)●マルチティンバー:2パート●オシレーター:FPGAベース・デジタル・オシレーター●フィルター:Dynamic Multi-Core Stereo VCF●プレイ・モード:8種類●シーケンサー:64ステップ●内蔵エフェクト:ディレイ、リバーブ、EQ、オーバードライブ、ディストーション、コーラス●入出力端子:USB-C、MIDI IN/OUT/THRU、ステレオ入力、メイン出力L/R、AUX出力、CV/GATE出力×2、フットスイッチ、ボリューム・ペダル、エクスプレッション・ペダル●外形寸法:780(W)×115(H)×380(D)mm ●重量:8.5kg

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