【製品レビュー】BEHRINGER Wave

80年代のドリーム・マシンを現代に蘇らせ
時間的な音色変化を追求したウェーブテーブル・シンセ

思えば電子楽器におけるデジタル革命は、主に1980年代初頭から前半にかけて起こったのであった。大学での研究用シンクラヴィアの一般向けモデルSynclavier IIやフェアライトCMIが発売されたのが1980年、PPG Wave 2(2.2、2.3と続いていく)やイーミューEmulatorが発売されたのが1981年。これらはいずれも当時の価格で約200万円〜1億円と高額だったが、オーケストラ・ヒットなどのサンプリング音、FM音源や加算合成によるベル/金属音といった、それまで主流のアナログ・シンセが出せなかった、あるいは安定的にクリアに出しにくかった音色の合成を次々と可能にして、同じくデジタル技術であるデジタル・リバーブを伴い、ポピュラー音楽シーンを席巻したのだった。

このデジタル革命は、1983年発売のFMシンセ、ヤマハDX7を皮切りに低価格化が進行し、一般化していったわけだが、その中でもPPG Waveが搭載し、現在でもいくつかのシンセサイザーやソフト音源が採用しているウェーブテーブルは、デジタル技術の中でも大変個性的で特筆すべきものの1つだ。ベリンガーWaveは、このPPG Wave 2.2ないし2.3を現代の電子部品で再現したものだ。ウェーブテーブルをそのサウンドの核としてオシレーターに置き、フィルターはPPG Wave同様アナログ・フィルターを搭載しているのだが、その価格差を考えると、欲しい人が低価格で手に入れられるこの時代に生きていることが、なんだか幸せに思えてくる。

ウェーブテーブルとは何なのか。アナログ・シンセにおいて、音色の時間的変化はEGやLFOにコントロールされたフィルターのカットオフやレゾナンスが主に担っていて、オシレーター部分だけで可能なのはPWM(パルス・ウィズ・モジュレーション)やオシレーター・シンク程度であった。ウェーブテーブルとは、オシレーター部分における音色変化を劇的に拡大するもので、アナログ・シンセのオシレーターが基本的に(PWMやオシレーター・シンク+LFO 以外は)単波形を繰り返して発音するだけなのに対し、ウェーブテーブルはあらかじめ多数の波形をつないだ状態のプリセットをいくつも備えて(さらにPPG Waveならハードウェア・オプションであるWaveterm、WaveならPC/Mac用のアプリケーションSynthTribeを使ってユーザー波形を読み込むこともできる)、その再生範囲や切り替えスピードをEGやLFOで変調していくのだ。波形切り替えの時にグリッチ・ノイズが発生するんじゃないかと心配になるが、滑らかに再生されるように少しずつ変化する波形があらかじめ並べてあるので、そこは大丈夫だ(最近のソフトシンセではモーフィングで波形間の補完を行うものもある)。ウェーブテーブル内での音色変化も、PWMなどLFO的に一定周期で変化するもの、いきなり変化の周期が速くなったり遅くなったりするもの、いきなり倍音が変化するものなど、バリエーションが揃えられていて飽きない。

▲PPG Wave同様、サウンドの核としてオシレーターにウェーブテーブルを、フィルターにはアナログ・フィルターを搭載。

Waveのウェーブテーブルに収められた波形は8ビットあるいは12ビットで、2026年の耳からするとハイファイ過ぎず、実に味わい深いものだ。本機の(メイン)オシレーターとサブ・オシレーターには、それぞれ同じウェーブテーブルでも異なるウェーブテーブルでもアサイン可能で、さらにサブ・オシレーターは音声出力をミュートしつつ(メイン)オシレーターをシンクさせたり、リング・モジュレートすることもできる。また、柔らかく太い音を実現するアナログ・フィルターのレゾナンス(EMPHASIS=エンファシスという言葉が使われている)は、上げていくと自己発振にまで至る設計だ。さらにこの信号は、EGなどでコントロールするアンプ(本機ではLOUDNESSと呼ばれる)を通り、この信号の流れをGROUPと呼ぶ。GROUPは2系統あり、1系統のみを使うことも、2系統使ってレイヤーやスプリットを組むこともできる。

レイヤーやスプリットでドローン的なパッド音と合わせたりする音程変化も考え合わせるなら、この機種はシーケンサー(64ステップ、ステップごとに8音ポリフォニック)やアルペジエーターも備えているので、ウェーブテーブルと合わせて時間的な音色変化のバリエーションはかなりのものとなる。これこそが、Waveの最大のメリットだと言えるだろう。ちなみに、オリジナルのPPG Wave同様、この機種はエフェクトを搭載していないので、現在であれば外部エフェクトでシマー・リバーブなどをかけてあげることで、最高のアンビエント・サウンドが得られそうだ。

最後にルックスと独特な入力方法についても触れておこう。一目でPPG Waveの再現機だとわかる青いパネルは、他の機種と比べて極めて個性的だ。パネル左側のノブ群は直感的に操作しやすく、右側のLCDウインドウと入力キーを使った詳細パラメーターの編集も、構成を理解することでより深い音作りに活用できる。一方で、筐体はPPGのそれと比べてかなりコンパクトで軽く、これは時代の勝利とも言えるだろうが、可搬性は圧倒的に良い。入出力は、オリジナルから引き継いだであろうCV/GATE外部入力、SYNC IN/OUT、メインの2チャンネル出力、8チャンネルのサブ出力に加え、MIDI IN/OUT(PPG Waveでは2.3から搭載)、USB端子を備えている。

80年代のドリーム・マシンだった本機であるが、最新のエフェクトと組み合わせて使うことで、私たちは新たな夢を実現していけそうだ。

文:堀越昭宏

製品情報

BEHRINGER Wave

希望小売価格●95,800円(税込)

Specifications

●ボイス:8●鍵盤:49鍵(セミウェイテッド、ベロシティ/アフタータッチ対応)●オシレーター:ウェーブテーブル(2基/ボイス、計16オシレーター)●ウェーブテーブル:30種類のクラシック・ファクトリー・ウェーブテーブル、64種類のユーザー定義ウェーブテーブル●フィルター:24dB ローパス・フィルター●エンベロープ:ADSR×2、AD×1● FO:1基●プリセット数:200●入出力端子:メイン出力L/R、個別出力×8、ヘッドホン、MIDI IN/OUT/THRU、USB Type-B、CV 入力、GATE 入力、SYNC IN/OUT、エクスプレッション/サステイン・ペダル入力●対応ソフト:SynthTribe ●電源:標準IEC C13●外形寸法:796(W)×112(H)×257(D)mm ●重量:7.26kg

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