強力なフィルターを搭載した現行機種レビュー 〜 PWM Malevolent
『FILTER Volume.10』掲載“強力なフィルターを搭載した現行機種レビュー”では、サウンドメイキングで活躍するフィルターを搭載したシンセサイザーをピックアップ。それぞれの機種のフィルターの特徴に着目しレビューした記事をWebでも公開!
入力レベルに反応して挙動が変わる凶悪フィルター搭載シンセ

PWM(Paul Whittington Music)の創業者ポール・ウィッティントンは、創業前にノベーション社でBass Station IIの開発に関わっていた。そこで知り合ったのが、イギリスの伝説的なシンセサイザー開発者で、EDP Waspやオックスフォード・シンセサイザー・カンパニーOscarを手掛けたクリス・ハゲットだった。クリスは2020年に亡くなったが、PWM社で2人が設計し、それを受け継いで製品化されたのがこのMalevolentだ。“凶悪な”という名を持つこのシンセサイザーは、他のどの機種にも似ていない強烈なサウンドを持っている。その中核となるのがフィルターだ。
Malevolentは、オプトFETを用いた2ポール・サレンキー型フィルターという独特の方式。シンプルな回路構成で、LPF/HPF/BPF の3つの出力を同時に得ている。ユニークなのは、通常のエンベロープやLFOなどによるコントロールだけでなく、入力信号それ自体によっても動作が大きく変化する点だ。
具体的には、入力信号=オシレーターのアウトプット・レベルが低い状態では、2ポール・フィルターらしい明るく素直な音色だが、レベルを上げるにつれてカットオフ・フリーケンシー(以下カットオフ)が下がり、倍音が減るとともに基音の多い腰の太い音に変化する。さらにレベルを上げると飽和感の加わった押し出しの強い音になる。このような入力信号レベルとフィルターの相互干渉は、レゾナンスを上げるとさらに味わい深いものになる。
入力信号が0の状態だと、レゾナンス・ツマミをわずかに上げるだけでレゾナンスは発振し始める。そこにオシレーターなどを入力すると、入力レベルを高くするにつれてレゾナンスは発振しにくくなる。先に述べたようにカットオフが下がるので、レゾナンスのピッチも下がる。入力レベルをさらに上げるとレゾナンスは発振しなくなる。
フィルターには可聴周波数より低い信号も入力できるので(実行する場合はモニター機器を傷めないように気をつけて!)、レゾナンスを発振させた状態でLFOやエンベロープを入力すると、グネっと変化するドローン・サウンドを作成できて面白い。
通常のシンセ・ベースやシンセ・リードを作成する場合も、オシレーターのアウトプット・レベルによってさまざまなカットオフ位置でレゾナンスとの干渉を起こしたり、発振ギリギリの吠えるような独特のサウンドが得られる。さらに面白いのは、オシレーターをデチューンした場合で、2つのオシレーターの干渉によるレベル変化によって、フィルターやレゾナンスの状態が刻々と変化し、自動演奏しているかのような有機的サウンドになる。内蔵のアルペジエーターと組み合わせるのもまた面白い。
またレゾナンスの“食いつき” がいいのも特徴。入力レベルを調節すると、鍵盤を弾いたあと即座にレゾナンス音が得られる。それに合わせエンベロープもとても速く設定でき、アタックを最速にするとクリック音が発生するのが気持ちいい。
オシレーターもまたフィルター同様にユニークで、DIY機器などで用いられることの多い4046チップをベースにしたVCO。音域によって倍音の状態が異なり、全体に低域で倍音が多く迫力がある。また、フィルターとは別にオーディオ出力段でもDriveツマミで歪みを加えることができ、両者の組み合わせでMalevolentな(凶悪な)サウンドを演出できる。
本機はほとんどのセクションに入出力端子が装備されているので、パッチングによる音作りが可能。フィルターの使用では多用される、キーCVによるカットオフのモジュレーションもパッチングで実現でき、鍵盤でレゾナンス音のピッチを変えたり、フレーズの音域に追従する音色作りも可能だ。もちろん外部入力も装備しているので、本機のフィルター部分だけを活用することもできる。リズム・ループなど、強弱が変化する音源を通しても面白い。ユーロラック・モジュールと組み合わせても、複数のキーボードの中にあっても、この個性的なフィルターの作り出すサウンドは強い存在感を発揮するだろう。
フィルターの個性と言うと、効き味や歪み感が話題になることが多いが、本機ではそれに併せてフィルターの挙動が面白いのが特徴。ぜひ手に取って触ってみてほしい。
文:高山博
製品情報
PWM Malevolent
希望小売価格●99,000円(税込)
Specifications
●鍵盤:32鍵(ミニサイズ)●19出力と19入力を備える、パッチング用の 3.5 mmモノラル・ジャック●2基のVCO:ノコギリ波/三角波/パルス波、1V/Oct ピッチ・コントロール入力、シェイプ・コントロール/パルス・ウィドゥス・モジュレーション入力、2つのフリケンシー・モジュレーション入力、コース/ファイン・チューン・コントロール、シェイプ・モジュレーション・アマウント・コントロール、FM 1 / 2 モジュレーション・アマウント・コントロール、シェイプ・コントロール●LFO:三角波/パルス波、レート・コントロール●2基のエンベロープ:個別のADSRコントロール/ゲート入力/エンベロープ出力●マルチモード・2ポールVCF:ローパス/バンドパス/ハイパス各入力2つのフリケンシー・モジュレーション入力(アマウント・コントロール付き)、フィルター・カットオフ/レゾナンス●ミキサー:ノイズ(レベル・コントロール付き)、AUX 入力(レベル・コントロール付き)●USB-MIDIから 1V/Oct CVおよびゲートへの変換●アルペジエーター●その他:オーバードライブ・コントロールを備えるVCA、ユーロラック標準の1V/Octギアに対応、ライン出力、ヘッドフォン出力、MIDI 入出力、USBバスパワー駆動対応●外形寸法:490(W)× 80(H)×250(D)mm●重量:2.61 kg
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